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月刊むし 350号 2000年April クワガタ特集号12 より抜粋引用


性懲りもなく臥蛇島リベンジ採集 7月6日

松下泰平氏,田中裕二氏の2名
6月下旬からそれぞれトカラに入っていて,お互い別々に悪石島や諏訪之瀬島でノコギリクワガタを採集していたが,ついに思い立ったように漁船を手配した。ほんの冗談のつもりだったと驚く田中氏と,強引に中之島で合流して,再びこの臥蛇島に去年のリベンジにやってきた。しかも今回はやけっぱちの3泊4日の野宿である。

荷物を運び終えると,田中氏は,去年みんながそうであったようにぐったりと動かなくなってしまった。私は一人散策に出る。今回は無駄を避けるため,ライトトラップは二人で一台しか持ってこなかったので,設置場所は慎重に選ばなければならない。200mほど先の急斜面の生えるタブノキの一群の梢部分をまっすぐ見上げることができるスイートスポットを発見。

ぶっとびの夜

(発動機を始動して)早くもノコギリクワガタの♂小歯型が飛来,何やらいい感じである。去年は気づかなかったが,他の島のトカラノコギリに比べて,小さい割にコロコロした体形をしている。この島の特徴なのかもしれない。その後もポツリポツリと少ないながらも途切れなく獲物は飛来し続け,いつの間にか去年の全ライトトラップ全日程の成果を上回るノコギリとトゲウスバが入り,とりあえずホッと胸をなでおろす。ただし,ノコギリの♂は相変わらず小歯型ばかりだった。

そのうち田中氏が中歯!中歯!と叫びなら走ってくる。慌てて長竿を持ち,しばらく彼を追って薮を抜け,彼が指差すタブノキの枝をほんの一瞬だけ懐中電灯で照らしてみる。確かにトカラノコギリの中歯型の♂らしき残像が目に残った。(本人はひそひそ声のつもりで)舞い上がっている。ルッキングの達人である田中氏がこんなに取り乱しているのを見たのは初めてだったが,なんとか無事ネットインしたそのノコギリは,なんと57mmもある立派な大歯寸前の♂であった。
今度はついに田中氏が大歯!大歯!と叫びながら走ってきた。中歯57mmがいたのと同じ「後神木」に,なんと61mmもある完璧な大歯型であった。

その晩は,その個体を筆頭にライト,ルッキング合わせてトカラノコギリクワガタ18♂♂7♀♀,トゲウスバカミキリ1♂4♀♀,そしてコクワガタ1♂という大成果を上げることができた。やはりこんな谷にも大歯型は存在した。大型の♂の特徴は,簡単に言えば悪石島産と同じタイプで,上翅はオレンジかかり,大腮も体型も太短い。しかし,小型個体はどう見ても諏訪之瀬島産に近いように見えた。

集落跡地

二日目
道脇の竹薮を突き抜けた海側に集落跡地らしき広場や神社の跡も見つけたので,ライトトラップをそこに移動する作業に明け暮れる。
そのうち,設営したライトトラップのすぐ脇のタブノキで,いきなり57mmの,しかも挟みキズのある黒っぽい♂を見つけた田中氏は,勢いにのって神社周辺くまなく見て回ったが,不思議なことにまったく追加が得られない。

しばらくすると,遠くから踊りながら田中氏が戻ってきた。そして悪石みたいの採っちゃったーと差し出したその手には,なんと生きたままの62mmオーバーのゴツい大歯型が。まさに悪石産そのものの,64mmぐらいに見えるあまりにも立派なその姿は,去年を経験している私には,嬉しいを通り越して違和感すら感じられ,この島に似つかわしくないとさえ思えた。しかし,先ほどの57mm同様,採集したタブノキについていたのはこの個体1頭のみで,その後二人で,あらためて周辺をすべて見回っても,小型個体すら見つけられなかった。いったい,どうなっているのだろうか?

期待の神社跡地のライトトラップも,結果はなんとノコギリはゼロ。
今日のノコギリの成果は62mm,57mmを筆頭に14♂♂5♀♀,すべてバナナトラップとルッキングのよる採集だった。

やはりノコギリは少なかった

三日目 
とりあえず今回はあらゆる意味で気持ちに余裕があったので,参考のためにノコギリクワガタの幼虫を探してみたが,やはりまともな発生木は見当たらず,わすが2頭の終齢幼虫を得ただけで,つまなないからすぐに止めてしまった。

夜になり,初日の場所に設置しなおしたライトトラップに最後の望みを賭ける。しかし,相変わらずノコギリクワガタの小歯型はなんとか飛来するが,数はほんの4〜5頭で初日の数の半分以下。天候や気温や風向きも,昨夜までと特に変化はないので,採れる分はほとんど採ってしまったということなのかもしれない。

今回の成功を祝いつつ,ライトトラップの前でまったりとした時間を過ごす二人の目の前に,何と57mmの大歯型が最後の最後に飛来して,今回の臥蛇島リベンジを締めくくってくれた。

最後に

大歯型のトカラノコギリクワガタがいくつか採集されたことで,ようやくこの島も本当の意味で本種の生息地として認知されることになるだろう。形態の特徴については,あくまで印象だけでいえば,悪石島・諏訪之瀬島タイプに入ると思われる。こと色彩に関してはかなり不安定であったが,我々が採集した38♂♂12♀♀には完全な黒化型は混じらなかったことを付け加えておきたい。
(左側62mm,57mm 大あごの湾曲が強いタイプ, 右側61mm,57mm 湾曲が弱いタイプ)

採集について